「マスター、良い匂いがします」
「いたいいたい!ゆるめてっ」
「あ、すみません」
力加減が分からなかったようで、背骨がみしみし軋んだ。痛みで涙目になりながらシルヴェストルの腕をぺしぺしして漸く緩まった。抱きしめられて死ぬなんて冗談じゃない。
「ごはんのにおいじゃないの?」
「いえ。マスターの匂いです」
ふんふんと首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐシルヴェストル。人間の姿でもやっぱり中身はオオカミのままなのね。というかくすぐったいんですが。
「甘い匂いがします」
「そうかなあ?」
つられて自分も嗅いでみるけど分からない。ご飯も食べてないし、起き抜け一番のこの騒動だから他の匂いが移ったとは考えにくい。だとしたらやっぱり私の匂いなのかな?臭くないんだったら別になんだっていいんだけど。
それよりも、幼児を抱きしめつつ匂いを嗅いで恍惚とした表情をした美青年って、ものすごく危ない雰囲気なんだけど。もし私が当事者ではなく第三者だったら、絶対にどん引きしている自信がある。
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