36 正体はチート神獣



「ほえ?」


 頬にザラリとした感触を覚えた。舐められたという事実を理解するのに数秒。眇められた黒い瞳にかち合った。私を慰めるような様子ではなく、ただ単に涙がどんな味なのか気になっただけ、といった風な態度に笑みが雫れた。


「おいしくないでしょ」


 オオカミはもう一度確かめるかのように一舐めした。なんだか今まで考えていたのが馬鹿らしくなっちゃった。理由は分からないけど、前世の記憶を持ったまま生まれちゃったものはしょうがないし、この不思議な色合いも見ようによったら綺麗なんだし。何よりも、こんな風に悩むのは私らしくない。
 悲劇のヒロインぶるなんて痛いことこの上ない。ただでさえファンタジーな世界に転生しただけでも痛いというのに、自らこれ以上の黒歴史を作ってどうするんだ。


「わたしのなまえは、エミリエンヌ=M=フェリシテ。あなたのなまえは?」


 オオカミは癖なのだろうか、また目を細めて私を見た。別に答えてくれるなど思ってもいなかった。まず、話すことが出来ないと思っていたのだから当然だ。しかし。

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