以前に周囲の環境のことを覚えていないと言ったよね。逆に鮮明に覚えていることがある。それは、宮迫理沙として死に絶える瞬間。死んだ理由は覚えていない。ただ、本当に死にゆく刹那だけが記憶に残っている。赤く染まる視界と耐え難い壮絶な痛み。この身が受けた傷をまだ覚えているのだ。今でも夢にうなされることがある。その度に思い知らされるのだ。一度死んだ身であることを。
「なんのために、わたしはうまれたんだろう」
空を仰げば、青い月が静かに輝いている。私がこの世界に独りきりであることを示されているような気がした。聞けば返ってくることが当たり前だと思っていた。しかしここでは答えが返ってくる方が少ない。すべて自分で考えていかなくてはならない。それがどれだけ心細いことか。
「ここには、だれもいないの」
私の全てを知る人が。
頬を濡らす水滴。それさえも虚しくて虚しくて仕方がない。泣いたってどうにもならないことなどとうの昔に知っている。それでも涙を流さずにはいられなかった。
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