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「…ありがとう」
「何か言いましたか?」
「ううん、何でもない」


 すべてが終わったら、感謝の気持ちを伝えようと思う。それを目標に私は頑張る。
 首を横に倒すイネスさんに笑って首を振った。


「エミリエンヌ様、湯浴みはどうなさいますか?」
「はいるー」
「では用意致しますね」


 化粧はすぐさま落としてもらったものの、やっぱりお風呂は外せない。だって日本人だもの。毎日綺麗でいたいじゃない。
 この世界アミラでは、毎日お風呂に入るという習慣がない。水やお湯で身体を拭くだけで済ませるのが一般的だ。お風呂もあることにはあるのだが、貴族しか入らない。しかも貴族もほとんどは拭くだけで終わるようだ。
 これを知った時、私は愕然とした。拭くだけ?お風呂入らないの?あのザバーンッていう快感をみんな知らないの?うっそん。私は猛抗議をして毎日お風呂に入ることが出来るようになった。ただ、一つ不満なのは毎回ジジさんとイネスさんが交代で私の身体を隈無く洗うこと。貴族としては普通なんだろうけど、しかし私は元日本人元庶民。恥ずかしいやら申し訳ないやらで最初は泣きそうになった。嫌だけどお風呂に入らないわけにはいかないので渋々されるがままになっていると、あら不思議。他人に身体を洗われることになんの抵抗も抱かなくなった。人間って順応性高いよね。
 そうなると、一般人用に銭湯を作るのも良いなあ。ゆくゆくは銭湯も視野に入れておこう。残念ながらフェリシテ家の領内に温泉はない。というかむしろアミラに温泉という概念があるかどうかすら不明。温泉ってプレートとかマグマの関係で地下水が熱されて地上に噴出するのが原因だっけ。
 根本的な問題としてアミラって球体なんだろうか。科学的に言えばそうじゃないと成立しないだろうけど、ここはファンタジーな世界だもんなあ。向こうでの常識なんて通用しないだろうし。プレートも存在するのか分からん。身に覚えのある限り、今まで地震はなかったみたいだし。でも地域によって地震が頻繁に起こったりそうじゃなかったりするから、あんまり一概には言えないよね。うーん。
 まあ難しい話は置いといて、温泉があるのなら浸かりに行きたいなあ。これも今後の課題に入れておこう。魔法が存在するからあまり科学が進んでないみたいだし。



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