08



 この生まれてから5年の間で両手で数えるほどしか会っていない父親とは似ても似つかない。アナベラさんが昔、言外にブサイクと称したことに関しては実際会ってみて納得した。お腹は双子でも身ごもっているのかというくらいたぷんたぷんで、顔は油ギッシュで世辞にも整っているとは言えない醜悪なものだった。おぞましい怪物のようだ、なんて思ったのはナイショだよ。これならオークの方が可愛げがあるなあ。よく母はあんな男に体を許したものだ。私だったら願い下げだ。
 ここまで言えば、分かるよね。母がそんな実父に喜んで嫁入りしたわけもなく。周りから情報を集めた結果、どうやら父が無理やり娶ったらしいことが判明。母は身内の安全を盾に脅されたよう。男として、人間としてサイテーだよね。大事なトコロをちょん切ってしまいたい。
 2歳になった頃、母は自害した。子を可愛がらない酷い人ではあったが、理由が理由なだけに同情する。それでも、育児放棄したことは許せることではない。パートナーに罪があったとしても子供に罪はないからね。自我を持って生まれてきたから良かったものの、もし純真無垢な赤ちゃんがこんなドロドロした中に放り込まれたらと思うとゾッとする。母を恨むつもりはない。類い希なる美貌が男の目に止まり、脅されて子供を産んだ彼女を恨むことなんで出来ない。同じ女として、どれほど屈辱的だったかは理解しているつもりだ。私を殺さず自分だけ死んだのは、最後の良心だったのではないだろうか。イネスさんやジジさん、アナベラさんも私を放置して会いに来ることすらなかったことに怒りを覚えているものの、その悲惨な人生には同情的だ。


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