「ごめんなさ、ごめんなさい。嫌わないで、お願いだから。ごめんなさい…」
水滴が目から零れ落ちる。俯く海を、サラマンダーは悲痛な表情で見下ろした。彼にも分かっていた。言った言葉が海を追い込んでいることを。
願うことさえ叶わない。それがどれだけ辛いことか。だが、知っていてほしい。海がいなくなれば、悲しみに暮れる者が数多くいることを。もちろんサラマンダーだって。
【…我らが、嫌いか】
「そんなわけないっ!!」
【同じように、我らも海のことが好きだ。そしてそれは精霊や聖獣だけではない】
不意に彼は目元を和らげて海の丁度後ろを指差した。その方向へと振り向く前に、風が頬を撫でた。
後ろから腕が伸びてきてふわりと優しく抱き締められる。どうしてか泣きそうになった。この温もりを、知っている。
「ヴァンさん…」
「話を、聞いてくれないか」
低い声が鼓膜を震わせた。敵わないな、などと思いつつ肩の力を抜いた。口元が苦笑を象る。何も聞かずとも、全て許してしまえるような凪いだ気持ちで次の言葉を待った。
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