48



「ごめんなさ、ごめんなさい。嫌わないで、お願いだから。ごめんなさい…」


 水滴が目から零れ落ちる。俯く海を、サラマンダーは悲痛な表情で見下ろした。彼にも分かっていた。言った言葉が海を追い込んでいることを。
 願うことさえ叶わない。それがどれだけ辛いことか。だが、知っていてほしい。海がいなくなれば、悲しみに暮れる者が数多くいることを。もちろんサラマンダーだって。


【…我らが、嫌いか】
「そんなわけないっ!!」
【同じように、我らも海のことが好きだ。そしてそれは精霊や聖獣だけではない】


 不意に彼は目元を和らげて海の丁度後ろを指差した。その方向へと振り向く前に、風が頬を撫でた。
 後ろから腕が伸びてきてふわりと優しく抱き締められる。どうしてか泣きそうになった。この温もりを、知っている。


「ヴァンさん…」
「話を、聞いてくれないか」


 低い声が鼓膜を震わせた。敵わないな、などと思いつつ肩の力を抜いた。口元が苦笑を象る。何も聞かずとも、全て許してしまえるような凪いだ気持ちで次の言葉を待った。

prev next

 



top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -