「ヴァンさんは貴族なんですか?」
「聞いてなかったのか」
「はい」
エティンセルは思わず呆れた。もちろん海にではなくヴァンに。何故ヴァンがフルネームを言いたがらないのかを知っている彼はゆるゆると息を吐き出した。
「ヴァンは、本名をヴァン=ラ・シエル=グランドデュークという。海ちゃんが言うように大貴族の生まれだ」
海は自分の予想が外れていなかった事に動揺を隠せなかった。最上使いであり、上から三番目の高位にあたる大貴族。それだというのにどうして彼は「貴族」という単語に嫌悪しているのだろうか。
ヴァンは自分について話したがらない。それが彼の性質であるのは十二分に理解していたが、それでも海は聞かずにはいられなかった。
「ヴァンさんはどうして」
「貴族が嫌いなのか」
途中で詮索するのを躊躇い口ごもる海の後を引き継いでエティンセルが言う。バッと海が彼を見ると、エティンセルは机に肘をついて表情を消していた。
なまじ顔が整っているため迫力がある。空気に呑まれてゴクリと喉を鳴らす海から、彼の方が先に目を逸らした。
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