29



 突然男の周りに炎が噴き上がった。狼王が唸り空に向かって咆哮する。それに倣ってその場にいる全ての者が声をあげる。木々や草花もざわざわと落ち着きなく揺れた。
 海は必死に今まで詰め込んできた魔法に関しての情報を思い出していた。書物にはイメージすれば魔法が出来やすいと書いてあったはず。海はゆっくりと深呼吸して目を閉じた。
 思い浮かべるのは男以外の全てに張る結界。精霊や神獣達はもちろん、木々や草花も守りたい。あの得体の知れない炎に焼かれてたまるものか。
 この辺り一体が光のベールに包まれる光景を強く、そして繊細に脳裏に浮かべてカッと目を見開いた。深緑の瞳が一瞬にして鮮やかな金色に変わる。


「!」


 男は金色の瞳を驚愕の色を浮かべて見つめる。途端痛い程の眩しさに反射的に目を瞑った。
 そして次に目を開けた時には、周りは淡いクリーム色に光っていた。地面も木々も精霊達もそして海も。非現実的な光景に男は思わず喉をゴクリと鳴らした。


「ハハッ、こりゃ凄いな」


―――ヒュッ!


 その時風を切る音がどこからともなく聞こえ、男は体を捻った。しかし避けきれずに頬が浅く切れて血が流れる。

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