「人間がこの森に来るというのか」
【恐らくは】
すんなりと肯定する妖精に狼王は眉を潜めた。言い方は悪いが、下層にいる彼らにも話が届いているというのなら、情報の信憑性は確実だろう。
海は人間が来ることがそれほど重大なのかと不思議そうに目を瞬いたが、狼王はそれどころではなかった。
この森は一般的に「精霊の住処」と呼ばれていて、神聖な場所であるために人間は来ない。その前に入れないのだ。精霊王、そして四大精霊を中心とした多くの精霊や妖精達が結界を張っていて、通常人間は入れない。
この森に入れるとしたならば、精霊に愛されし者であるか、それともヴァンのように強い魔力の持ち主、最上使いであるかの二択である。精霊に愛されし者、海は既にいるのだから後者であろう。
「っ!」
ざわりと森が揺れた。木々や草花が、風もないのに揺れている。海は異常を示す光景に目を見開く。
「一体何が」
来るというのか。呟いた声に返答はない。瞬時に狼王が人型になり海を背にして立った。まるで何かから守るように。ギラギラと青い瞳が一つの方向を睨む。
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