25



◇◇◇


 ハガは澄んだ水が無いと育たないため、希少種であると本に記されていた。そのため、あるかどうか不安だったが心配は不要だったようだ。花と葉の区別がつかないほど濃い緑が幅の狭い川を中心として辺り一面を覆っていた。
 呆然と佇む海を、風の妖精たちが取り囲んでふわふわと漂う。綿毛のような彼らが優しく海の頬を撫でた瞬間、ザァ…と強い風が通り抜けて、緑の花弁が舞う風景のなんと幻想的なことか。


「綺麗」


 呟いた海は気づいていない。その「幻想的な景色」の中に自分が含まれていることを。
 黒髪は風に煽られてさらりと流れ、深緑の瞳に映り込む緑が息を呑むほど美しい。狼王も見惚れた。人型になるのも忘れて、目の前の美しい映像を目に焼き付けようと瞬きすらせずに。


【綺麗だ】
【お美しい】
【海様は本当に】


 鈴の音のような声が囁かれるのが耳に入り、我に返った海は人差し指を差し出した。ふわりとその指に一匹の妖精がとまる。重さのほとんど感じないため、本当に綿毛のようだ。

prev next

 



top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -