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「それぞれ同じくらいに、籠の八分目くらいまで」
「分かった」


 早速摘み出した狼王を横目に、海も鮮やかな紅い実が付いているキラの草に手を伸ばした。小さい手では取りにくく、少々苦戦する海とは対照的に手早く摘んでいく狼王。
 大体四分目までキラの実で籠が埋まり、次は真っ白な実が実るユノイの木に手を伸ばす。高い所は狼王に任せて、ギリギリ手の届く低い所に実っているのをちまちまと採る海。
 ふと狼王は手を止めて海を見た。相変わらず四苦八苦している姿が可愛らしく、自然と頬が緩んだ。視線に気付いた海は手を止めて首を傾げる。
 その際に肩まで伸びた艷やかな黒髪が頬にかかった。なんとも言えない凄絶さに狼王は心臓が大きく波打つのを感じた。しかし表面に出すことはなく微笑んでみせる。


「否、海が余りにも愛らしかったのでな」

 一瞬キョトリと瞬いた海だったが、意味を理解してジワリと頬に熱が迫り上がる。普通なら「そんな馬鹿な」と笑って返すところだが、何分、恐ろしいほど美しい彼に微笑まれてそんな台詞を吐かれれば海も照れる。
 そうでなくとも元々は平々凡々だった海にとって褒められることは余りにも少なかった為に免疫が皆無にも等しい。徐々に集まってくる熱に、海は手で顔を覆った。


「そんな事をそんな顔で言わないで」


 海は自分が可愛いと言われた事を否定する前に、狼王の笑みにやられてそう呟いた。おや、と狼王は目を丸くする。どうしよう、可愛すぎないか。と悶えながらも海の柔らかな髪を梳く。


「川の上流に連れていって?」
「ああ」


 照れ隠しなのかムスリと口を尖らせる海に小さく笑って狼王は頷いたのだった。

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