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「澄んだ空気」


 緑の多い、どころか緑しか見当たらないこの土地で、空気が美味しくないはずがない。海は嬉しげに目を細めて深く息を吸った。
 東の空が明るくなっているのを見て、足を踏み出した。その踏み出した海の足元にじゃれつくように擦り寄っているのはオオカミ。しかしひとえにオオカミといえどもただのオオカミでは無かったりする。


「海、今日は何を所望するのだ?」
「今日はキラの実とユノイの実、それからハガの茎だよ」


 オオカミの口から放たれたのは紛れもない人間の言葉。それに驚く風でもなく海は答えて、オオカミの頭を撫でてやった。
気持ちが良いのか、目を細めるオオカミに海は微笑んだ。


「キラの実とユノイの実ならばいつも通り湖畔で採れるだろうが、ハガの茎は少し遠出になるぞ」
「うん。ハガは確か川の上流にあるんだったっけ」


 この2、3年の間でヴァンの愛読書を読み詰め込んだ知識を掘り起こす。


「よく知っているな。流石だ」
「そんなことはないよ」


 オオカミの言葉に苦笑する。海は前よりもより一層美しさが増した顔を少し歪めた。オオカミはさほど気にせずに海を自身の背に乗るように促した。


「今日もよろしくね、狼王(ロウオウ)」


 海に名を呼ばれたことに歓喜して、オオカミ、狼王はしなやかな巨体を震わせた。狼王は他のオオカミ達の頂点に立ち、その地位に座る故に屈することのないその足を折り曲げる。唯一従うと決めた海のために。背の重みを感じて立ち上がり、軽やかに駆けた。

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