21 来客



◇◇◇


 海が異世界に飛ばされた日から3年目。日課になりつつある薬草を摘むために、海はまだ空が明けてない時間に起き上がる。
 眠気に自然と落ちてくる瞼を手で擦ってなんとか食い止めると、裸足でベッドから降りた。寝巻きを遅い動作で脱ぎながら、昨日渡されたメモを確認する。


「キラの実と…ユノイの実、ハガの茎か」


 向こうでは見たことも無かった、しかしどうしてか読める文字の羅列を見るのにももう慣れた。なんだかんだ言いつつもこの世界に順応してるなんて、人間って案外に単純な生き物だなと思うことも多々ある。日本では土に触ることなど小学生の農園以来一度も無かったが、大体の仕組みは同じなのですぐに理解出来た。
 此方に来てからというものの、精霊たちは何をせずとも寄ってくるのだが、あまり魔法は見たことがない。ヴァンが高位の使いであることは分かってはいたが、海が「見せてほしい」と頼み込んでも見せてくれたためしが無い。別に何か不便があるわけでもないが、見てみたいものは見てみたい海。


(僕に見せたくないのかな)


 長い時間一緒にいて、ここまで見せてもらったことがないのも可笑しい。見せたくない理由があるのなら言ってくれればいいのに、と海は嘆息した。
 動きやすい服装に着替えて、足音を立てないように静かに歩みを進めた。細心の注意を払って静かに閉めたドアを背に、深く息を吸う。目の前に広がるのは当然のように森。
 ヴァンの家は森の中としか言い様がないほどに、周りに森しかない。此処で暮らし始めて3年目に突入しているのだが、どれだけ自分の足で歩いても森から出られたことはない。恐らくかなりの面積の森なのだろう。人の足では到底街に出ることは出来ない。
 当然、海は街に出たいとは思っても出たことはないし、それ以前にヴァン以外の人間に会ったことがない。それを不自然に思うも、まだ言い出せずにいた。

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