04



 日本での七色海は大学生であった。それこそ平凡を絵に描いたような男で、平凡な人生を送ってきていた。今までに彼女も何人かいたこともあるし、そこそこ有名な大学に入学し日々が楽しくて仕方が無かった。それなのに。
 気づけば自分を客観的に見ていた。暴走したトラックに突っ込まれて、自分であったはずの肉体はバラバラになり血の海に沈む。そう、つまり「事故死」したのだ。自分の葬式で肉片が焼かれていくのを見ながら海は地球から消えたのだ。死ぬことを自覚していなくなったはずなのに。
 気づけば自棄にメルヘンチックな森の中にいて、しかも自分が幼児化しているではないか。そんな状況で平静を保っていられるわけもなく、動揺を隠し切れないところに美丈夫が現れた。男は緑の髪と目が人為的に染めたものではなく天然であった。しかも男は「ヴァン」と名乗り、その時点で名前の響きからして日本人ではないことに潔く気づいたのだった。それでも一縷の望みを抱えて尋ねたが、願いはあっさりと粉砕した。
 海の学部専攻は地学であるため、地球上にある国名全ては言えなくとも聞いたことはあるはずだ。それなのに耳にしたことがない、ということはここは恐らく地球ですらないのだろう。海は絶望を感じ頭を抱えた。
 地球でないのならここは「異世界」なのだろうか。まさかそんな馬鹿げた話など、と思うがどうしようもない。不安に押しつぶされそうになって、とうとう海はその深緑の瞳に溜まった水を零した、その時。

 ふわり、と柔らかい風が海を包んだ。泣くのを抑えようと必死になるが、恐らく子供になったせいで感情の制御が上手く出来ずにボロボロと涙を流しながら、その風を不思議に思って顔を上げると。


【泣かないで】


 華奢な美女がそこにはいた。けれどもその美女の背には蝶の羽が生えており、決定打に海を包み込むように浮いていることにより人間では決してないことを知れる。海は驚いて目を瞬かせる。


「貴女は?」


 海の問いに羽の生えた美女は目を細めて柔らかく微笑んだ。美しくどこか神秘的なその表情に、思わず自分の状況を忘れて見惚れた。

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