01 終焉



 ふと気づけば宙に浮いているようだった。それは当然なのだろうけれど不思議な気分で、それこそ初めての感覚だった。僕という重さが無くて、存在が無いのだと言われているようなそんな気がした。下を見れば、僕が血の海の中で無残な姿となっていて、すぐそばにある凹んだトラックを見て「交通事故」に遭ったのだと漠然と思った。
 そこでようやく僕は自分が「死んだ」ことに気づく。現実味が無くて、いやでも真実味はあって、僕は自分だった肉片をただ見つめていた。

 それからは物凄い速さだったような気がする。自分の葬式に参列する顔見知りの奴らだったり、サークル仲間だったり、付き合っていた彼女とその友達が泣いていた。そして、僕を育ててくれた両親。父親はただ暗い面持ちで、母親は涙を零し続けて。
 「ごめんなさい」と届かない言葉を呟いた。最期が僕だとも分からないような悲惨な姿であることに、ただただ申し訳なかった。でも僕はもうこの世に存在しないのだと思うと、何故か涙が出ることはなかった。どこかで他人事のように客観視していたのだろうか。自分の体だったものが焼かれるのを見て、段々と自分の体が透けていくのを感じた。そっと目を閉じて最期の時を、待った。
 それこそ最期に、母親と父親を見やる。今は暗いその表情が一日でも明るくなれるようにと願わずにはいられなかった。

 そうしてその日、一人の青年はこの世界からいなくなった。

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