04



(…出番、かな?)


 木葉は木の上で呟いた。サワサワと揺れる葉を目を細めて見ながら、読んでいた本を閉じた。
 常備している狐の仮面を被る。伝統的な花屋の衣装(というほどでもないが)で、狐の仮面で顔の上半分を隠し、赤い紅を唇に塗る。元々肌が白いために、異様に紅の赤が目立ち浮世離れして見えた。


「お困りでしょうか」


 軽やかな身のこなしで壱の目の前に着地する。涙を流し続けていた壱は驚きからか、涙を止めた。


「38代目花屋ミセバヤ。どうぞよろしく願います」


 木葉は恭しく深く一礼する。


「は、なや…?ほんもの」
「はい、本物ですよ。ミセバヤとお呼びください」


 柔らかな物腰で応対する木葉に、壱は目を瞠った。噂でしか聞いたことのない、その上存在すらあやふやな花屋が実在していることに驚いているのか、自分の目の前に現れたことに驚いているのかは定かではない。


「お客様、お困りのようで」
「…困って?」
「何を願いますか」


 有無を言わせない様子に、壱は詮索は無理だと悟る。


「…みぃを。猫を、見つけてほしい」
「猫ですね。少々お待ちを」


 木葉は淡々と言い放ち、―――消えた。

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