ひとりめ
一人の青年が無表情ながら、どこか泣きそうな雰囲気を漂わせていた。
彼は生徒会書記、分かりやすく言えば無口大型犬、といったところか。名を有川壱という。
壱が何故泣きそう(な雰囲気)になっているのかというと、その原因は単純明快、ペットの猫が見つからないからだ。
「みぃ…」
ポツリと零した言葉は立ち並ぶ木々に吸い取られて消えた。同時に涙もポツリと壱の足元の土に吸い取られて跡形もなく消える。
壱は困り果てていた。雨があがり、透き通った空気に散歩に行こうと猫のみぃを連れて学園の敷地内にある森へと来ていた。そこでみぃとじゃれていたのだが、心地良い澄んだ空気に幹にもたれかかってウトウトしてしまったのだ。
その数分の間にみぃはいなくなってしまった、という訳だが。
「…ど、しよ」
とうとう堪え切れなかった涙がポタポタと地面に吸収され始めた。
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