「誰だ」
中から聞きなじみのある声が聞こえた。もしくかしなくとも裕貴なのだろう。
頑張りすぎだよなぁ、なんて考えながら、木葉は扉を開けることもせずにそっと封筒を扉の前に置いた。
どうしても、木葉は裕貴と話すことを避けたかった。親しい間柄であるために、声だけでバレる可能性もあったから。
「………?」
ガチャリと扉を開け、首を傾げる裕貴。見渡しても廊下には誰もいない。ふと足に何かが当たった気がして目線を下げると、そこには封筒があった。
「…花屋?」
“38代目花屋ミセバヤより”
カードに記された文字の羅列に驚く。まず実在していたことの驚き。
「地図?しかも配置…」
分かりやすく示されたそれに、目を見開く。これを作るだけでも、普通なら数週間掛かるはず。しかし裕貴が配置を考えなければと思い始めたのは、つい3日前だ。仕事の速さにさえ感嘆する。
「………木葉、」
ふと、裕貴は木葉の香りがした気がした。
「…まさか、な」
木葉が花屋であるはずがない。そう自分を納得させるが、どこか引っかかるのは否めない。裕貴は誰もいないはずの廊下をじっと見つめていた。
御仕事完了
「喜んでくれるといいな」
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