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「ここでいいかなぁ」
「うん」


 二人仲良く手を繋いでやってきたのは人気の無い裏庭。知っているものなどほとんどいないような、奥の奥地にある大きな楓の木が一本堂々と佇むそこに腰をおろした。
 並んで座る唯と狛はふわふわとした心地良い空間を楽しんでいた。


「あのねぇ、狛くん」
「何かな?」


 コテリと首を倒す狛に唯は無性に撫でたくなって、その本能に忠実に従った。狛は急に触れられた事に驚きはしたものの、それを甘んじて受ける。


「今の状況、とても危ういと思うんだぁ」


 唯は目を細めて狛を見つめる。少々戸惑いつつも、自分の状況は誰よりも知っている狛は小さく頷いた。
 唯の言う通りまさに今「危うい」のだ。いつ親衛隊達の怒りが決壊しても可笑しくないこの状況下に気付かない者など、未来だけだろう。
 未来の取り巻きは危険な事を知っている。だからこそ未来から離れず、逆にべったりと引っ付いて手出し出来ぬようにしているのだが、それが余計に親衛隊を煽ってしまっている。
 未来に手が出せないのならば、向かう先は狛でしかないのだ。


「俺の親衛隊やかいちょおの親衛隊は心配いらないんだけどぉ、国谷くんに恋しちゃってる人達の親衛隊がねー」
「…うん」


 重い面持ちで首を縦に振る狛を唯は心配げに見やる。誰よりも危機を感じているだろう狛を心配せずにはいられない。小柄なこの子が、辛辣な感情に耐え切れるはずもない。今でさえ、きっと一杯一杯だろう。
 よく知っている唯であるからこそ、狛の身を案じる。

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