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「おはよー」
ガラリと教室のドアを開ける。表情はいつも通りヘラリとしたものを浮かべていたが、内心ドキドキである。
(歓迎されなかったらどうしましょう)
不安は募るばかり。授業に出ることが出来なくなって何週間目であろうか。自分はもうクラスメイトに忘れ去られているのではないか、と唯はマイナス思考になってゆく。
『氷室(様)!!』
バッと全員の目が一点に集中し、唯は思わずたじろぐ。しかし幾つもの目には決して否定的な色は浮かんでおらずむしろ。
「仕事は終わったのか?」
「大丈夫なんですか、氷室様」
「顔色悪くない?」
「しっかり睡眠取ってるのか?」
むしろ、心配そうな色があちこちに浮かんでいた。唯はクラスメイトの剣幕に驚き身を固くするが、周囲は止まる気配を見せない。
「会長と氷室しか仕事してないんだろう」
「その他は堕落してるもんね」
「飯と睡眠だけは最低限取れよ?痩せてる気がする」
「皆心配してたんですよ」
そこまで言われてようやく状況を把握出来た唯はパチクリと一つ瞬きする。そして。
「ありがとう」
感謝の意を述べて、ほにゃりと頬を緩めた。若干素に戻りかけていたが、それに気付く者はいない。否、気付くどころではなかった、といった方が正しい。
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