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 愛しくて愛しくて仕方が無い、という風に目を細める臣を直視してしまった唯は思わず固まる。そんな唯に微笑んだ臣は、口の端に口付ける。


―――チュッ


 可愛らしいリップ音を響かせた臣は潔く唯から離れる。目を白黒させて口元を覆う唯に破顔した。


「ここは」


 臣の男らしい骨ばった指が唯の唇に触れる。口元を覆っていた手は臣によって退かされていた。


「唯が俺を受け入れた時に取っておく」


(まあそれまでに理性が保たなかったらどうしようもないが)


 内心そんな物騒なことを呟いて表面上は微笑む。


(その時はその時、だ)


 ゆうるりと口角を上げると臣は掴んでいた唯の手を持ち上げる。華奢なその指先に一つキスをして、そのまま振り返らずにその場を去った。
 残された唯は、腰が抜けて座り込んでしまった。火照った頬は収まらないし、更には目の前がクラクラして乗り物に酔ったような感覚に襲われる。もしも本当に酔ったのならば、臣から放たれる壮絶なまでの色気と甘い空気にだろう。キスされた方の手をギュっともう一方の手で掴み俯く。


(どうして、こんなことになったのでしょうか…)


 憂いを帯びた表情で溜息を吐く唯。誰もいない生徒会室前の廊下で唯の吐き出した溜息は空気に溶けて消えた。

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