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「会長、離してください」
「名前で呼べと言ったはずだが?」
「…臣先輩、離してください」
「嫌だ」


 嫌々ながら名前を呼んだというのにこの男は!と、唯は怒りが込み上げてくるも、必死にその感情を抑えた。どうもこの男には調子が狂わされる。それは朱鷺にも同じことが言えるのだが。厄介な人に目を付けられた、と唯は嘆息した。


「お前のその様子だと、セフレというのはやはりガセか」
「まぁ」


 男を抱く趣味も、抱かれる趣味も唯は持ち合わせてはいない。偏見は皆無ですけどね寧ろどんと来いですけどね、と心中で呟く。


「童貞か?」
「ハッキリ言わないでもらえますか?」
「お前…溜まらないないのか」


 何が、とは言わなかったものの、直接的なその言い方に唯は再び嘆息した。


「俺は淡白なんですよ」


 性欲がないわけではないが、唯は他人と比べて性欲が少ない。と、自分では思わなかったが友人に言われたことが多々あった。
 別に堅物でもないんですけどねぇ、とぼんやりと思うが言い返せなかったりもするのだから始末に終えない。友人には哀れまれたりもした。あれは居た堪れなかった、と一人ゴチる。


「ふぅん」


 臣は哀れには思ったが、童貞だという事実にホクホクだった。

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