16



 朝起きるともうすでに10時を回っていた。もちろん、平日である。


「遅刻ですね」


 諦めの溜息を吐いた唯はもそりとベッドから起き上がった。昨日は出来事が多すぎてグチャグチャになった頭の中で、一つ横切るのは。


「…純潔を奪われたような気がします」


 決して唇を奪われたわけでもないのだが、しかし消失感は拭えない。何か、男のプライドというかなんというか、そういうものが昨日奪われた気がする。


「………ファーストキスは守りました」


 今時?と思われるかもしれないが、唯は未だ純潔なままである。まぁ中身は腐っているのだから、純潔であるのかは疑わしいのだが。
 深い溜息を吐きながら学校に行く準備をする。遅刻も遅刻、大遅刻だから今更急いでも意味はないと考え、スローペースで準備する。


(もし、本当に溜息をつく度に幸せが逃げるというのなら、昨日のうちでどれほど幸せを失ったのでしょうか)


 くだらない事を考えながら、しかしそう思うと唯はかなりへこんだ。むしろ幸せがマイナスになっている気がする、と一人呟く。


「ん?」


 準備をし終わって、さあ行こうとドアを開けた時、ドアに挟まっていたのか紙が落ちてきた。唯は首を傾げながらそれを拾い、丁寧に折りたたまれたそれを開く。


「…どれだけ気を使っているのでしょうか」


 呆れた、でも嬉しさが滲む顔で笑った。

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