10



 とぼとぼ、とへこみながら唯は廊下を歩く。ふと前を見てカチリと固まった。


「氷室」


 生徒会室のドアの前で腕を組み仁王立ちで佇むのは臣。怒気が溢れているくせに表情は涼しく、それがまた唯の恐怖を増した。
 こういうとき、唯はしみじみと頂点に立つ者を感じる。まあ今はそんなことを考えている余裕もないのだが。


「…えぇと」


 朱鷺のことで思いっきり臣のことが頭から抜けていた唯は、内心「心の準備まだ出来てないです!」と冷や汗を流している。怒られることを承知の上ではあったが、やはりこの人物は怖い。


「何か、言い訳は、あるか」


 一つ一つゆっくりと発音する臣に、唯は身体を震わす。


「俺は、一時間で起こせ、と言ったよな?」
「…ハイ」
「今、俺が寝てからどれくらい経った?」
「…3時間デス」
「忘れていた、とは言わせない」


 怒気が膨らみ唯は思わず後退した。トン、と壁に背中がつく。


「…なぁ?」


 臣は唯の身体の横に両手を置く。完全に逃げ場をなくした唯は怯えながら臣を見上げた。

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