03



「逃してはくれませんか」


 答えを知っている癖に聞く僕は愚かだろうか。その証拠に語尾を上げはしなかった。「彼」が逃してくれるはずもないことを、僕は分かっている。
 だけれども、最後の悪あがきくらいはさせてほしい。そんな僕を真っ直に見据えて、「彼」は、笑う。全てを見透かしたように、笑う。


「分かっているのに問うか?」


 静かな重低音に、僕は。


「分からないふりを、させてはくれませんか」


 これも、語尾は上げない。全て分かっているから。抵抗くらいさせてほしい。だけど僕の願いは再び砕ける。


「答えはもう分かっているだろう」


 まあ、分かっていたけれど。正論である「彼」に逆らえるはずもない。


「…そうですね」


 異常なほどの静寂の中、僕は立ち上がった。四方八方から視線は突き刺さるものの、「彼」には適わない。カタン、と椅子と床が擦れる音だけが教室に響いた。


「jokerは王の意のままに」


 「彼」の前で跪く僕を、「彼」は見下ろす。その瞳には何が宿っているのかなど、僕には分かるはずもない。


-Der Clown ist Wille des Konigs-
(jokerは王の意のままに)

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