「―――水名静」
ざわりと空気は驚くほどに揺れた。しかし揺れたのは一瞬だけでその後はもう息を呑むのも躊躇うほどの静寂だった。
此処は何処だ。そう思わずにはいられなかった。
此処は教室なんかじゃない、「彼」に支配された地だ。ならば何と呼ぶ?では「地獄」と呼ぼうではないか。
さぁその「地獄」と化させた張本人といえば、涼しい顔で立っている。これ以上無いほどに整った顔は、彼の性格や行動、そして噂も便乗して迫力を増す。切れ長の瞳に既視感を感じた。
その感覚は正解だろう。恐らくは―――いや100%彼こそが強い視線の主なのだから。
「水名静」
もう一度彼は同じ言葉を口にする。残念ながら空耳だという願いは霧散した。
ふ、と僕は息を吐き出して顔を上げた。そうすれば予想通りに彼の強い視線と交わる。
諦めた方が早かっただろうか。彼の意図が分からない、などと言っておきながら、ただ逃げていただけの僕。認めたくなかった。
彼が僕を欲しているだなんて。
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