成す術もなくされるがままになっている僕を解放してくれたのは、もうすっかり思考も回らなくなった頃だった。
離れる際に繋がって切れた唾液の糸に我に返る。だが体は溶かされて力が入らない。僕をそうさせた張本人を見上げれば、その闇より深い漆黒の瞳に情欲が滲んでいるのが見えた。
「―――…なぜ」
痺れた舌を動かして声を発する。吐息すら熱く、快楽の余韻に体を震わせた。
「言ったはずだ。俺はお前がほしいと」
どちらとも分からない唾液に濡れた唇のまま王は笑った。僕は同じような状態になっているであろう唇を手の甲で拭う。
「手加減してくださいよね」
一応これでも初めてだったんだけど。まぁ僕も男だし、ファーストキスに夢見る訳でもないのだからダメージは無いけれど。初めてが王だなんて、しかもディープキス…うん、考えないようにしよう。
「初めてな訳でもないのだろう?」
「悪いですか」
僕の返答に王は驚きを隠せないようだ。僕は平凡だからね。まあその前に健全なる男ですけどね。
ふ、と心中で息を吐く。色々とボロが出ているような気がする。それでも仮面は被ったままだけれども。
ぶるり、と体を震わせた。じっと王の目を見れば、楽しげな色が宿っていた。
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