「何だこの書類は!」
窓の外はすっかり太陽の姿は見当たらずに暗闇と化している。それを横目で確認しつつオフィス内で怒号をあげる上司を、華吉咲(ハナヨシ サク)は見やった。
「見ての通りプレゼンの書類ですが。不具合でもありましたか?」
最低限の抑揚のみ含んだ淡々とした言葉を発する。中年太りにも程がある目の前の狸にとって、それは逆撫ですることになってしまう。
「分かりにくい!やり直せ。俺に恥をかかせるなっ!」
いっそのこと、脂肪に圧迫されて内臓悪くして入院すれば地球にエコだろうに。心中で盛大に罵倒しながらも表面上は人の良い表情を取り繕う。
「明日まで待ってやろう」
「…ありがとうございます」
殊勝な態度に少なからず満足したのか、鼻を鳴らした擬人化した豚は鞄を持ってオフィスを出て行った。己だけ定時で職場を去るなど、よく出来た性格だ。
ゆるゆると息を吐き出した咲のすぐ後ろから声が鼓膜を震わせる。
「血管破裂して死ねば良いのに。希望は脳味噌で」
「…太刀川」
諫めるように咲は太刀川朝貴(タチカワ アサキ)を呼んだ。先程までの黒い言霊は嘘であったかのように、本人は爽やかな笑みで咲を見た。
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