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「おはようございます、華吉課長」
「………」
「おはようございます、華吉課長」
「…おはよう」


 オフィスに着くといつも通り朝貴が先にデスクについていた。今日も早いな、と思いつつ咲もまた自分のデスクへと荷物を下ろすと、気づいた朝貴がやわらかな笑顔でこれまたいつも通り咲へと朝の挨拶を投げかける―――予定だった。
 何故か朝貴は咲を見るとやわらかな笑みから背筋の凍る種類の笑みへと変換し、咲に声をかけた。咲は朝貴をひきつった顔で見て、二回目の挨拶に漸く返した。


「課長、鎖骨のところどうしたんですか?」



 言われてハッと首元を押さえた。瘡蓋が出来たまま、ガーゼで隠そうと思っていたのを忘れていた。にこにこと表面上は良くても後ろに見える黒いオーラは隠しきれていない。咲はどう答えたものかと思案するが、朝貴の笑顔に気圧されて慌てて口を開いた。


「鬼に噛まれて…」
「鬼?」


 盗み聞きしていた女性社員が咲の言い訳にくすりと笑った。


「鬼だなんて。犬ならわかりますけど」
「…そう、だね。うん、犬だよ」
「課長、今日はなんだかおもしろいですね」
「そうかな?」


 流れたことにホッとしつつ、和やかに彼女と会話を続ける。朝貴だけは眉間に皺を寄せて腕を組んで考え込んでいた。

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