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「花嫁殿はどんな方でしたか?」
「………」
白藍はその質問には答えずに、僅かに目元を緩めた。その表情の変化に驚きを隠せない。
血の気の多い暴れん坊が、ここまで柔らかい顔にするとはどんな人物なのか。いや、暴れん坊と言うには少々可愛らしすぎる。
白藍は一旦キレると取り返しがつかない。返り血を被って幾度となく赤黒く染まる姿から「紅(くれない)」と呼ばれている。
いつも何を考えているのか分からない彼には、良い機会なのかもしれない。白藍に仕える身として、幼馴染として、常磐は嬉しく思う。どうか彼に心の平穏を。
「どないしたんですかい?旦那、機嫌良いやないですか」
飄々とした声の方へ顔を向ければ、チャラい印象を受ける金の髪と目を携えた男が細い目を更に細めて立っていた。口元は軽薄な印象の残る笑みを浮かべて、流し目で見やる白藍の下へと軽い足取りで近寄る。
額にある角を触りながら、男、山吹(やまぶき)は漸く膝を折って頭を垂れた。
「花嫁殿が見つかったそうだ」
「!それはほんまですか」
「ああ」
常磐の言葉にバッと顔を上げた。細い目が精一杯開かれて、白藍を映した。
「そうですかぁ。めでたいですやん!鬼頭様にはもう?」
「いや、まだだ」
「なら是非自分も連れていってくださいな」
「私もお願いします」
白藍は勝手にしろ、と言い残して踵を返した。常磐と山吹はその次期鬼頭の背を距離を開けて追いかけた。
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