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「…ッ」


 咲の赤く色付いた目元に淡く桃色に染まった頬は、白藍の加虐心を十二分に煽っていた。自分のものとは思えない高く甘えるような声を出さぬように下唇を噛んで耐える。
 そのふるふるとした様子さえ男の奥底にある欲望を生まれさせるのだから手に負えない。咲の行動一つ一つが白藍の情欲を掻き立てる。


―――ガリッ


「うあッ!」


 首筋から唇を滑らせて、浮き出た鎖骨に遠慮無く噛みついた。思いっきりしたせいでぶつりと皮膚が切れて血が流れ出た。
 咲は痛みに目を見開き手の力を強める。びくりと大きく震える身体に白藍は満足げに口角を上げ、血を舐めあげた。


「…逃がしはしない」


 愛しき花嫁、と白藍の囁きに咲は強い光を宿した目で見やった。しかしほんの僅かにその瞳は揺らいでいる。複雑な感情の渦の中に白藍の整った顔立ちが映り込んでいた。


「今宵は月が綺麗だ。…なあ、我が花嫁よ」
「…知りません、そんなこと」


 強い否定の言葉は震えていた。精一杯の虚勢に気付いているのかは分からないが、白藍は夜空を仰いでから咲と視線を交わらせた。そして頬に口付けを贈る。


「…また会いに来る」


 そう言い残して、跡形もなく姿を消した。

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