09



「―――」


 佇む影に、咲は言葉を発することすら出来なかった。
 美しい男だった。美し過ぎるが故に、人間味が無い。容姿端麗、威風凛然、容顔美麗。そんな四字熟語が咲の頭をよぎる。
 青みがかった黒髪は艶やかで同様の瞳は怜悧に眇められており、陶器のよいに白い肌は血色が窺えない。和服を着込んだ男は、凄艶さと2mを越える長身以外は何の変哲もない。
 ―――そう、額に一つ角が出ている以外には。
 それを認識した咲はやはり人間ではなかったのかと納得する。


「貴方は…」
「白藍」


 ポツリと零された声は咲の心の奥底を震わせた。


「御前は」
「私は、咲。華吉咲」
「サク」



 白藍(シラアイ)と名乗った目前に立つ男を見上げた。カチリ、とピースが当て嵌ったかのように視線が合わさるとほぼ同時に、呼吸を奪われた。抵抗もままならぬままに男の良い様に貪られる。


「…っふ、」
「サク、俺の花嫁になれ」


 口付けの余韻で赤く色づいた咲の目元にキスをして白藍は言い放つ。僅かに目を瞠る咲を、彼は変わらぬ無表情のまま見つめる。

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