08



「…すごい」


 岩の傍に立って見上げてみる。成人男性の平均身長ほどの咲の二倍弱くらいか。3mは確実にあるだろうそれには、一周するように縄が掛けられていて、祀られていることが知れた。
 咲はほぼ無意識に、それでいて自然な動作で岩の表面に掌を置いた。


「?」


 その途端、咲に感情の波が襲った。複雑に絡み合った感情は咲には読み取れなかったが、胸騒ぎに耐えられず手を離す。瞬間に収まったざわめきにホッと息を吐き出して踵を返そうとした。
 しかしすんでのところで動きを停止する。満月によって岩に映し出されていた咲の影が、異様に大きくなっているのだ。
 つぅ…とこめかみに冷や汗が垂れ、重力に従って地面に落ちた。恐怖からではなく、気配は全く感じないのにも関わらず威圧感が咲を覆い尽くしたからである。


「…誰ですか」


 震える唇を叱咤し問いかける。


「顔を見せろ」


 水面に滴が落ち波紋を広げるかのような、静かな声が咲のすぐ後ろから聞こえた。思わず聞き入り従ってしまいそうになるのを堪えて、自らの意志でゆっくりと振り向いた。

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