07



 冷たい夜風が咲を包み込む。疲れ切った頭を覚ますには丁度良いと、咲は目を細める。頭上を仰げば、煌々と輝く橙に近い色の月が咲を見下していた。
 路地に入ると街灯は激減するが月光のおかげでよく見える。咲はつい二週間程前に引っ越した我が家であるマンションへと足を運んでいた。


「ぁ」


 途中でピタリと止まる。目に留まったのは古びた年季が入った神社。マンションに引っ越して5日経った時にこの神社を見つけてから、咲はほぼ毎日通っていた。
 今は都合良くお供え物も持っている。自身の持つコンビニの袋を見て、体の方向を変えた。少し剥げた赤の鳥居をくぐり、中へと入る。いつ来てもこの神社には誰もいない。
 人の気配は無いのに手入れはされているようで木々や草は綺麗に整えられている。咲はコンビニでの釣銭をポケットに入れたままだったのを思い出し、引っ張り出した金を賽銭箱に投げ入れた。
 無難に「仕事が上手くいきますように」と手を合わせ、咲は袋からみたらし団子を出して置いた。用は済んだとばかりに体を反転させると、咲は首を傾げる。


「…こんなとこに岩なんてあったっけ?」


 目線の先にあるのは大きな岩。月光に照らされた表面は、どこか神々しさを与える。誘われるようにして近寄るとその大きさがよく分かった。

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