03



「はい、華吉課長。どうかしましたか?」


 綺麗な顔立ちをした咲直属の部下に、周囲にいる居残り組の女子社員は頬を染める。きっと女子社員は彼の声が聞こえていなかったか、頭の中で抹消したかのどちらかだろう。
 仕事の呑み込みは早いし気も遣える。朝貴は申し分なく優秀な部下ではあるが、厄介な性質でもあることを咲はなんとなく気付いていた。


「いや、何でもないよ」
「そうですか?その書類、僕がやりましょうか」
「私の責任だから自分で片付けるよ。ありがとう」


 腑に落ちない顔をする彼に微笑みかけると、朝貴は小さく苦笑した。書類を一日、否、半日で仕上げるなど内容が内容なだけに無茶苦茶な話である。それなのに咲は他人に手渡すことはない。
 26歳という若さで課長にまで登り詰めた彼は、優秀さももちろんのこと、厚い人望と人柄によって慕われている。しかしそんな咲を、上の地位の者達は良く思わない。先程押し付けられた書類にしたって見落とした所など一つも無いというのに。
 単なる嫌がらせ。それで終わるには随分と卑劣な行為だ。だがストレス社会の文字が背中にのし掛かる現代では、仕方が無いのかもしれない。
 朝貴は自分に同じように押し付けてくれれば良いのに、と思う。言ったところで笑顔で拒まれることも目に見えているが。

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