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「捲るか?」


 息吹は気を遣って尋ねたが、雅はふるふると首を横に振った。


「あったかい」


 それはそれは幸せそうに、可愛らしく笑うものだから息吹は思わず顔を背けた。口元に手を当てて顔が赤くなったのをどうにかやり過ごそうとしている息吹を雅はキョトンとした表情で見上げる。
 サイズの合わないブレザーで暖を取りながら首を傾げた。しかし声を掛けても反応が返ってこないため、早々に興味を無くした雅は周辺を見渡す。
 水の中に落ちる前も思ったが、やはり美しい。森の奥にあるだけあって、雑音は一切として無く、時々聞こえる小鳥の可愛らしい囀りと木々の間を風が通り抜ける際に微かに擦れる葉のサワサワとした囁きに感動すら覚える。
 人間独特のざわめきが無いこの場所は、元来人混みを苦手とする雅には居心地が良い。これほど居心地が良いのなら、もしかしなくとも此処は彼の陣地ではないだろうか。


(―――邪魔しちゃったかな)


 そう考えつくと、どうしようにも思考はマイナスに向かうばかりで。沈む雅に息吹は訝しげに声をかけた。

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