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「ダークブルー?」
「…ああ」


 やっと反応を返した男に雅はニコリと微笑む。そうすれば男は眉を潜めた。雅は少しむっとして眉の間をグリグリと手で撫ぜた。


「癖になっちゃいますよ」


 そう言えば表情が和らいだ。と言っても、僅かに目を細めただけだったが。それでも十分だと雅はゆるりと頬を緩めた。


「悪かった」
「…?」
「俺のせいで落ちただろ」


 何のことだろうと首を傾げる雅に男は言い直す。ああ、とやっと理解した雅はふるふると首を振った。


「自分も悪かったですから」


 それに、と雅は続ける。


「助けてくれたじゃないですか。それでオアイコです」


 無邪気に笑う雅に、男もつられて頬を緩めた。


「俺は早乙女雅です。貴方は?」
「…鬼束息吹。息吹で良い」
「息吹さん、ですか?俺も雅で良いですよ」


 雅は男、息吹の言葉に顔をほころばせた。しかし、その直後、小さく体を震わせてくしゃみをしてしまった。
 どうやら衣類が水を含み、肌に貼り付いている所為で冷えてしまったようだ。雅は肌に纏わりつく感触に秀麗な顔を顰めた。


「ほあっ?」


 バサリという音と同時に目前が暗く何も見えなくなった雅は、光を探してもぞもぞと身動ぎする。顔を出して原因を広げてみると、それはブレザーだった。


「着とけ。風邪をひく」


 呆けた表情で数回目を瞬き、息吹とブレザーを交互に見比べた。早乙女家は好意は受け取る方針であるため、雅は満面の笑みを浮かべ礼を述べた後、いそいそと袖を通した。


「…袖が」


 雅は標準的な身長だが、息吹は大柄な為に、袖から指先が少ししか見えない。雅は腕を上げてべろんとした袖を見つめた。

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