13
「ダークブルー?」
「…ああ」
やっと反応を返した男に雅はニコリと微笑む。そうすれば男は眉を潜めた。雅は少しむっとして眉の間をグリグリと手で撫ぜた。
「癖になっちゃいますよ」
そう言えば表情が和らいだ。と言っても、僅かに目を細めただけだったが。それでも十分だと雅はゆるりと頬を緩めた。
「悪かった」
「…?」
「俺のせいで落ちただろ」
何のことだろうと首を傾げる雅に男は言い直す。ああ、とやっと理解した雅はふるふると首を振った。
「自分も悪かったですから」
それに、と雅は続ける。
「助けてくれたじゃないですか。それでオアイコです」
無邪気に笑う雅に、男もつられて頬を緩めた。
「俺は早乙女雅です。貴方は?」
「…鬼束息吹。息吹で良い」
「息吹さん、ですか?俺も雅で良いですよ」
雅は男、息吹の言葉に顔をほころばせた。しかし、その直後、小さく体を震わせてくしゃみをしてしまった。
どうやら衣類が水を含み、肌に貼り付いている所為で冷えてしまったようだ。雅は肌に纏わりつく感触に秀麗な顔を顰めた。
「ほあっ?」
バサリという音と同時に目前が暗く何も見えなくなった雅は、光を探してもぞもぞと身動ぎする。顔を出して原因を広げてみると、それはブレザーだった。
「着とけ。風邪をひく」
呆けた表情で数回目を瞬き、息吹とブレザーを交互に見比べた。早乙女家は好意は受け取る方針であるため、雅は満面の笑みを浮かべ礼を述べた後、いそいそと袖を通した。
「…袖が」
雅は標準的な身長だが、息吹は大柄な為に、袖から指先が少ししか見えない。雅は腕を上げてべろんとした袖を見つめた。
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