03



「俺が居ないからってお前さー」
「だってはる、」
「はいはい、ちゃんと分かってるから」


 この犬が、と心の中でぶちぶち言いながら、だけど表には出さない。これ以上夏哉のテンションが下がっても困るしな。ふと下に向けた視線は夏哉の手を見て止まった。


「夏哉、保健室行くぞ」
「何で?」
「手から血出てる」


 殴ったせいで血が滲んだ拳を指差す。他には怪我はなさそうだな。


「…こんなの舐めとけば治る」
「そんな訳ないだろ」
「…本当だって。はるが舐めてくれたらどんな傷でも治る」
「何で俺が舐めなきゃなんねぇんだよ。グダグダ言ってないで保健室行くぞ」


 夏哉の腕を掴んで足を動かす。あ、と思い出して振り向けば教師たちが呆然と俺と夏哉を見ていた。


「そこの夏哉に喧嘩吹っかけて返り討ちにされた加害者は放っとけばそのうち意識戻りますよ」
「…な、んで分かる」


 俺は苦笑に似た顔を作る。そりゃあ、な。


「波瑠にそう言われたからだ」
「夏哉?」
「文句あんのかよ」


 アッサリと夏哉に遮られる。教師たちに睨みを効かせる夏哉に彼らは首が千切れんばかりに横に振った。夏哉はその様子を冷たく目を細めて見送り、俺を軽々と姫抱きにしてさっさとその場から去った。
 何気に姫抱きとか男としてどうよ、とか思う。俺が小さい訳ではないぞ、決して。ただ夏哉がでかいんだ!

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