02



「―――夏哉」


 教師に連れてこられた場所は殺人現場並の血だったと後に保険医は青褪めた顔で言う。それくらいには悲惨な状況ではあった。
 けれど俺はそれに怯むことも、脅えることもない。慣れって素晴らしいな。俺はこの先殺人現場でも交通事故でも出遭ったら冷静でいられるだろう。
 これ以上悲惨な状況はないだろうと俺は思う。強いて言うなら地獄絵図、だろうか。まさしくそれだ。その殺人現場、もとい地獄絵図の中心で拳を振り翳していた男は、息を呑むほどの美しさを誇っていた。
 切れ長の瞳に鼻筋の通った高い鼻、サラサラの黒髪。文句なしに美形である。ああ、これは俺への嫌味だろうか。そう思うくらいに平々凡々である俺にとって、段違いであるその男の名を黒木夏哉という。ついでに補足すると、一応俺と夏哉は友人関係である。


「はる?」
「ああ。夏哉」


 俺の決して大きくは無かった声に潔く反応し、殴るのを止めた夏哉に「おいで」と口パクで言ってみせると、大人しく持っていた男子生徒を放り投げ近寄ってきた。
 その時点で大人しくはないし、更には俺に近寄ってくる際に夏哉が倒したのだろう生徒たちを踏みつけながら来たのだから、穏便ではないのだけど。


「何で入学早々こんなことになってんの」
「ごめ、なさい…」


 シュン、と本当に反省しているように項垂れた。はぁ、と俺が溜息を漏らすと夏哉はビクリと体を揺らす。


「言い訳はある?」
「…はるが居なくてイライラしてたから」
「売られた喧嘩買っちゃったわけ?」
「うん」

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