「―――金谷波瑠はいるか!?」
高校の入学式早々、慌しい未来の気配に溜息混じりの息を吐き出して俺は立ち上がった。
「金谷波瑠は俺ですけど」
教師であろうスーツに身を包んだ俺の名を盛大に呼んだ人は一瞬俺の顔を見て怯んだ。コイツなのか、と目は口ほどに物を言うもので。そんな視線に慣れてしまった俺が一番嫌ではあるのだけれど、原因は決して俺自身ではない。
新しい顔触れのクラスメイトたちは怪訝そうに俺と教師を見比べる。入学早々何をしたのかと。二度言うが俺自身のせいでは絶対にないのだ。
「…早く来てくれ」
教師は明らかに落胆した、否、絶望した表情で俺を呼んだ。それに反抗したくとも、まあ仕方がないで終わらせる。だって事が事だから。
ゆるりと息を吐き出して俺は教師のところへと足を動かす。恐らくこの教師が俺を呼んだ理由は、内申書、というよりも俺の母校中学校からお達しがあったのだろう。
「アレを止めるのは金谷波瑠にしか出来ない」と。随分と身勝手な話だ。
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