20



 あんな…状況で言う事ではない。そう思った途端に再び残像が蘇ってきた
 吐き気が込み上げてきて逃れる為にぎゅっと強く目を瞑り、自分の体を抱きしめて縮こまる。ベッドの上で小さくなる俺に、夏哉は躊躇いながらもそっと触れた。


「…波瑠」


 苦しげに吐き出された俺の名前に顔を上げる。顔を歪めた夏哉が俺の頬に触れた。


「俺のせいで、ごめん」
「夏哉…」


 今にも泣き出してしまいそうな夏哉の表情にぎゅっと胸が締め付けられる。どうしようにも、正しい返事が見つからず名前を呼ぶ事しかできなかった。


「いつも思ってた、離れた方が良いって。いつか、こういう事が起こり得る可能性がある事も分かってた。…でも」


 離れられなかった。どうしても、傍にいたかった。
 夏哉の言葉を静かに受け入れる。今此処で俺が何かを言うべきではない。それは懺悔に似たようなものだと、俺は分かった。
 一緒にいる中でそんな悩みをずっと一人で抱えていたのかと思うと、何故か愛おしさがこみ上げてきた。別に怒っていない訳ではないし、許す事も出来ない。
 けど、夏哉なら許しても良いかなって思えるくらいには惚れてるんだな、と微笑んだ。笑う俺を不思議に思ったのか夏哉が首を傾げる。


「良いよ。俺も傍にいたい」
「…でも、その意味分かってる?」


 分かってるよ、誰よりも。危険に目を瞑ってまで、一緒にいたいと思うんだ。それだけの覚悟は持ち合わせているつもりだ。

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