09



 思考が女々しくなっていく。考えを振り切るように首を振った。不思議そうに俺を伺う夏哉に何でもないと言って笑う。


「はる?」
「平気だ」
「はる」
「大丈夫だって」


 納得出来ないとばかりに何度も俺の名前を呼ぶ夏哉に投げやりに答える。夏哉は俺の返答の仕方にムっとしたらしく、俺の腕を掴んできた。


「波瑠」
「!」


 珍しく俺の名前を真剣に呼ぶ夏哉に息を呑む。ああ、今は放っておいてくれ。どうか俺が笑えるまで。


「波瑠、言って。俺に全部言って」
「…なにを」
「全部受け止めるから。波瑠が思うこと全部俺に教えて」


 夏哉の言葉に思わず無言になる。今は言うべきじゃない。そんな気がするんだ。


「今はいい」
「………」
「もう少ししたら言う。それまで待ってくれるか?」
「…当たり前」


 困ったように笑う夏哉に、俺も苦笑を寄越す。そのまま俺は夏哉に腕を引かれて胸の中に納まった。不本意だけど身長が低い俺は身長の高い夏哉に丁度良いようだ。
 優しく、でも強く抱きしめられて、普通の俺なら抵抗していたのに甘受したのは、俺が弱っていたからだろうか。夏哉の温度に安心して俺も腕を回した。男同士で抱き合うのも可笑しいが、まあこの際いいだろう。
 周りに不審に思われるかもしれないけど、この温もりを今は離したくなかった。その様子を一人の男が見ていたなんて知らずに。


「―――ふぅん、そういう関係なんだ?」


 男はゆらりと口元に笑みを浮かべていた。

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