07
「はる?着いたよ」
夏哉の声に回想から思考を現実へと移すと、既に保健室の中だった。保険医はいないようで誰もいなく、見慣れない、けれどもよく嗅ぐ独特の医療品の匂いを感じながら夏哉に下ろしてもらった。
実は、というか分かっているだろうけど、こういうことは夏哉と出会ってから少なくはなくもう慣れてしまった。
何が、って例えば夏哉が暴れる度に俺が呼び出され、止めに入れば夏哉に謝罪された挙句姫抱きで保健室に直行という流れだ。
最初こそ血に怯えたり姫抱きに抵抗したりしていたのだが、慣れとは恐ろしいもので違和感がなくなってしまった。俺は手探りで必要な消毒液やらなんやらを見つけ出して、慣れてしまった手つきで夏哉の手に包帯を巻きつけた。
「出来たぞ」
いつも通り綺麗に巻けたそれを見て満足した俺はポンと叩いた。
「…ありがとう」
それを痛がるでもなく受け止めて、夏哉はそれはそれは可愛らしく破顔した。大の男に「可愛らしい」とは失礼なのかもしれないが、本当に可愛いのだからしょうがない。
フニャリと笑う夏哉に癒される。ほのぼのとした雰囲気が知らず知らずの内に出ていることに俺は気づかなかった。
―――チュッ
頬に柔らかい何かが押し付けられる感触がした。その正体は既に分かっている。夏哉の唇だ。この行動は夏哉なりの感謝らしい。
本人がそう言っていたからそうなのだろう。満面の笑みを浮かべる夏哉に苦笑混じりの笑みを返したのだった。
ふと考える。今日は入学式だ。夏哉は暴走し、それを止めた俺はこれからも夏哉の保護者として認定されてしまうのだろうか。
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