06



「―――これは、どういう状況なわけ?」


 浅い眠りから目が覚めた俺は、どアップの整った顔に悲鳴をあげようとして慌てて口を閉じた。いつの間にやら黒木の手は俺の腰に回りガッチリと固定されていて抜け出せない。
 寝る前は確か距離を置いていたはずだ。それなのに、どうしてだろうか。俺が勝手に入り込んだのかと考えても腰に感じる腕の重みが否定する。一人微かに香る香水の中で悩んでいると。


「誰」


 寝起き独特の掠れた低音に体を震わせた。


「今日転校してきた金谷波瑠だけど」
「…は、る?」
「う、ん?」


 いきなり名前呼びなのか、と戸惑いながら頷くとフワリと微笑みかけられた。


「…俺は黒木夏哉」
「ああ、うん。黒木の名前は担任から聞いた」
「夏哉」
「え、」
「夏哉って呼んで?」


 俺は黒木の言っている言葉の意味を理解すると首を傾げた。何故、と当たり前な疑問が浮かぶ。


「なんで?」


 俺の素朴な疑問にキョトンと目を瞬かせた黒木は即答した。


「さあ」
「えぇぇ」


 それはもういっそ清々しいほどに言い切ったのだ。その後結局無理やり名前を呼ばされた俺は黒木、ではなく夏哉を教室に連れて帰った。
 そして俺を迎えたのは異様に静かな空気と、担任からの賞賛と、それからクラスメイトになるだろう人物たちの引き攣った顔だった。
 後に夏哉が危険な人物であり悪い噂が絶えないことを知って頭を垂れたのはまた別の話。そんなファーストコンタクト以来夏哉に懐かれた俺は必然的に夏哉の保護者となった。他の奴でもいいじゃないか、とも思ったのだが俺にしか懐かないし俺の言うことしか聞かないので、やはり役目は俺一人が負うことになったのだった。

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