04



「どうしたんだ」


 いつになく不機嫌な夏哉は、腕の中にいる俺には優しく扱ってくれているが静かな廊下を乱暴な足取りで歩いている。


「はる」


 泣きそうな声音に顔を上げれば、整った顔が歪められていた。折角綺麗な顔してんのに。そんなことを思いながらも、その表情が意味することを知っている俺は安心させるように微笑んで端正な顔を両手で包み込んだ。


「迷惑かけてごめん…」
「平気だってば」


 夏哉はどうやら俺に迷惑をかけることが嫌らしい。最近気づいたんだけども。


「…喧嘩してごめんなさい」
「うん」


 まるで懺悔のように謝罪を繰り返す夏哉に垂れた犬耳が見える。なんだかなぁ、と思いながら夏哉の指どおりの良い髪を梳くように撫でた。


「喧嘩はそりゃ好きじゃないけど、俺は止めろって言ってるんじゃない」


 優しく諭すように話しかける。いつしか止まった夏哉の歩調に心中で苦笑した。


「俺は夏哉に怪我をしてほしくない、それだけだ」
「うん」
「ほら、早く消毒しなくちゃだろ」


 再び揺れ出した夏哉の腕の中でそっと目を閉じた。初めて会った一年前を思い出す。結構前のことなのについ最近のことのように思える。始まりは今日のような桜が舞う4月だった。

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