01



 桜の木の根元へと腰を下ろし、瞼で瞳を隠してまどろんでいる少年がいた。雪のように白い肌に睫毛が影を落とす。
 少年が着ている学生服のおかげで性別がハッキリと分かるが、制服でなければ恐らく性別不明であっただろう。少女のようにも見える、しかし少年にもちゃんと見える中性的な顔立ち。そんな少年の名を、白神冬という。
 黒髪を風に揺らされて冬は重い瞼を持ち上げた。静かであるはずの森で空気が大きく振動している。冬は大きな瞳を細めて優雅に立ち上がった。


「…く……ぃ、」


 小さく呟いた声は騒音に消されて誰にも届くことなく消えた。冬は秀麗な顔立ちを僅かに歪ませてもう一度心中で同じ言葉を呟いた。


(―――…くだらない、)


 心底嫌そうに携帯を取り出してどこかに電話をかける。独特の機械音の後に潔く相手側に繋がった。


『あ”?誰だ』
「…森の北側、強姦容疑」


 低い声が電話越しに冬の鼓膜を震わせるが、冬は淡々と自分の用事だけを言い放つ。その話し方と声に相手側は溜息を吐いた。


『またか』


 更に低い声が冬の耳に届く。冬は無表情で無言を貫いた。またか、というのは恐らく強姦について。この学園では犯罪行為が日常的に行われている。
 それを取り締まる為に構成された組織の一番上のその人。だからこそ総責任として動かなければならないのだが。


『俺と組まないか』


 笑みを含んだ言葉に冬は口の端を持ち上げる。


「…なら、捉えてみせなよ」


 妖艶な低い声。冬の声音に相手側は背筋にゾクリとしたものが駆け巡った。


『…上等』


 受けてやろうじゃねぇか、とそこで電話は切れた。冬は無表情に戻りさっさとポケットに携帯を仕舞うと歩き始めた。一方、相手側の人間は自身の携帯を握り締め笑みを浮かべていた。

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