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「―――行くのか」


 膝上程のキャリーバッグを片手で引き、冬は明に小さく微笑む。悠や明に引き止められたのにも関わらず、躊躇いなく学園を後にした。
 その後、父に直談判し留学を決意。父も雪が亡くなってから冬の心が凍ったことを気にしていた。せめて周りに陰口を囁かれないようにと、海外留学を勧めたのだ。
 三年の猶予の中で白神という名字に縛られずに好きなことをしなさい。それが父が言った言葉だ。冬は寂しそうに笑んだ父の顔を思い出してクスリと笑った。


「冬?」
「何でもない。…ただ、僕は沢山の人に愛されてるんだなって」


 広い視野を持った瞬間、世界が広がった。多くの人に心配されていたことを改めて思い知ったのだ。ふわりと幸せそうに笑む冬を、明は優しく抱き寄せた。


「離れるのは嫌だ」
「…うん」


 明の想いは痛いほどに分かる。冬だって嫌だ。それでも自分で決めたことだから今更変えることはしない。


「冬が決めたことだ。引き止めはしない」
「ありがとう」

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