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「雪、僕も愛してるよ」


 あの日、朧気な中キスをされた。親愛ではなかったのだと、冬は気づいていた。雪に返事を。囁かれた雪の最期の言葉は今でも覚えている。


『愛してる』
「でも僕は恋愛感情じゃないんだ」


 鼻をすすりながら、此処にはいない分身に言い放つ。


「好きな人が出来たよ。雪の事件を担当した警察の人の息子なんだ」


 まるで、今もそこに雪がいるかのように冬は話す。


「人の縁って面白いね。どこに繋がりがあるのか分からない。…でね、雪。僕、この人が好きなんだ」


 七年越しの告白の返事を。彼はもういないけれど。彼の姿は記憶の中で成長を止めてしまったけれど。


「世界で一番大切な人。雪よりも、…大切な人」


 ボロリ、と大粒の涙が零れる。それでも冬はゴシゴシと拭って、とびきり幸せな笑顔を浮かべた。
 それは、学園を歩く時のような作ったものでもなく、諦念に沈んだものでもない。


「だから、ごめんね。好きになってくれてありがとう」


 それから、と続ける。


「雪の分まで幸せになるよ。それが、雪の望みなんだよね」


 開いていた窓から強い風が入ってくる。冬の髪を揺らして、それは一瞬にして消えた。冬は雪の肯定の返事のように思えた。

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