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「冬、お前の弟は、苦しむ事を望んでいない」
「どうして…?」
「白神雪は、死ぬ間際に北に伝言を頼んだそうだ」


 驚愕に体を強ばらせる冬を抱いたまま、片方の手でレコーダーを取り出した。それは昨晩翠里が明に持ってきたものだった。
 再生ボタンを押すと、ノイズの混ざった声が聞こえてくる。


『―――倒れた白神が言ったんだ。"幸せになって"、"あの子に伝えて"って。僕にはよく分からなかっ…ザー―――」


 カチリ。
 声は間違いなく撫子のものだ。事情聴取の一部を録音したものを、翠里は持ってきたのだ。夜中に病院に忍び込み明を叩き起してまでして。
 "朝は留守にするから逃げるな"と翠里は言った。裏をかけば"朝、私はいないからその時に会いに行ってきなさい"という事だ。それが、翠里の真意だった。暗にレコーダーを渡したのは冬に聞かせろという意味だ。
 自身の腕の中で体を震わせしゃくりあげる冬を優しく撫でた。


「…雪が言った言葉の意味は、他の誰よりも冬が知っている。…だろう?」


 冬は何度も大きく頷いた。

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