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「…最初は鬱陶しかったけど、いつの間にか気になってて大事な人になってた」


 冬は小さく笑った。目からはとめどなく涙が零れていて、どう見ても歪な笑みであったが、綺麗だと思わずにはいられなかった。


「そんな人が、僕の代わりに血を流した。僕はもう、一緒に居られない。一緒に居たら、また失ってしまう…雪のように」


 冬は自分が臆病なだけである事を分かっていた。自分が傷つきたくないからこそ、逃げている事も分かっていた。
 けれど、それでも逃げずにはいられない。頭で分かってはいても、無理なのだ。どうしても、この恐怖から逃れなければならない。


「だがそれは」
「僕は」


 悠の言葉を遮った。そして一拍間を置いて微笑んだ。それは諦念が混じった、見ていて苦しくなるような笑みだった。


「―――僕は、幸せにはなれない」

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